「勝ちパターン」教育こそ最強の成長促進剤
ノウハウが属人化され、ブラックスボックスになっているチームに入れても、若手社員の成長は期待通りにはいかない。仕事の手順だけではなく成功しやすい「勝ちパターン」を徹底的に教え込み、成果を出させることで眠っていたモチベーション、成長の実感はぐんぐんアップする。
オープンな環境でアドバイスせよ 営業職での新人教育の例を見ながら、若手社員が自分の成長を実感するとはどういうことかを考えていきたい。 ネット求人広告会社のディップは、上場する同業他社中、過去6期連続で成長率ナンバー1を誇る伸び盛り企業である。業界の草分け的存在のサイト「はたらこねっと」をはじめ、複数の求人サイトを展開している。 ディップでは、採用形態を中途採用から新卒採用に転換を図ってきているが、中途で入社してきた営業職は、前職で培ってきた営業スタイルで仕事をすることがどうしても出てきてしまう。 同社では、媒体ごとの契約までのワークフローをもう一度再整理して、効率的な営業体制を構築、それをより迅速に進めるために顧客データベースを一元化し、オンデマンドCRMツール「Salesforce」を導入した。無駄のない顧客へのアプローチの手法を確立することで、ディップならではの社風を作り出すことも一つの狙いだったという。 営業企画本部本部長の井坂智博氏は次のように語る。 「それぞれが独自のスキルを発揮するのは構わない。しかしその中心には幹となる勝ちパターンがないといけない。この勝ちパターンを確立するには、個人まかせで不透明になりがちだった営業プロセスを可視化する必要があったのです」
可視化されたプロセスは、オープンな環境で教育したい人全員にインプットしていくことができる。「分かる人は分かる」という秘伝ではなく、真面目に取り組めばほとんどの人が成果を上げることができる、という安心感がさまざまな個性を持った人たちにも浸透させやすい。 プロセスを明確化してピンポイント指導 ディップが確立した営業活動の流れは、次のようになる。 ![]() Salesforceに入力された全社統一の見込み客情報を見て、リードゲットセンターが電話でアプローチする。アポイント獲得案件は各サービスの営業部門に引き継がれ、DMやセミナー告知が必要なものは、各営業担当者がSalesforce上でチェックする。具体的な作業は販売促進課という部署が引き継がれ、営業担当者は契約獲得という、本来業務に集中する。顧客と接触した際の情報は、Salesforceに入力され、プロセスが上司にも分かるようになっている。また、このような仕組みにしたことで、営業担当者同士がアプローチでバッティングすることもなくなった。 営業プロセスが各案件ごとに可視化されていることで、マネージャは部下に具体的な指示を出しやすくなる。情報を共有しているので、話も早い。同社では新人研修で30日間の営業研修を実施している。昨年は約200名の新卒社員の研修を行った。これは実際に営業プロセスに沿って顧客にアプローチする実地研修である。 問題点に気づき熱いうちに手を打つ 営業推進部部長の小岩浩美氏は次のように語る。 ![]() 「200名の新人に対して、トレーナーは3名でした。細かい指示やアドバイスはできないのでは、と思われるかもしれませんが、プロセスが可視化されているのでピンポイントでアドバイスができましたね。このシステムを導入する前に行った研修の成果と比較しても、新規アポイント獲得率は約3倍にアップして、研修期間のみで2000万円分の受注ができました。さらに、今年の夏から実施している大学3年生と内定者によるインターンシップ活動では、ビジネスマナーやスタンス形成だけでなく営業プロセスをSalesforceを活用しながら教えています。これによって、インターンシップ参加者は、自然と仕事のプロセスを学ぶことができ、営業の早期戦力化の促進になると感じています」 何もかもが新鮮で、猪突猛進することが多い新人でも、実地研修で成果がなかなか出なかったり、的確なアドバイスが受けられないと、途端に意気消沈することがある。しかし、同社ではそのような心配はないようだ。具体的に何をどうすればいいのかが分かっていて、まず手順を踏めば間違いはないと分かれば、システムへの理解はそもそも早い。小岩氏も「積極的な意見もどんどん出てきて、プロセスの可視化の威力はすごいものがあるな、と感じました」と語る。 ディップではプロセスの改革、システムのカスタマイズは今後も進めていくということだが、「新卒社員を採用し、ゼロから育て鍛えていきたい」という同社の戦略は、幹となるプロセスを作り出したことで大きく前進したと言える。中途採用の社員がそれぞれのスタイルで仕事を進めているケースは、非常に多いはずだ。ディップはその危うさに早期に気づき、手を打ったわけだが、そのままになっている会社も多いだろう。 「営業は現場で学べ」という意見は間違いではない。しかし、それぞれの新卒社員がばらばらな手法を身につけて数年間を過ごすのは、非常に危険だと言える。会社が基本的なルール、手法を明示して、仕事のプロセスをオープンにしていないと、各若手社員の「行き詰まり」や「思い込み」が見えなくなってしまい、近くにいる先輩社員や上司も的確なアドバイスができなくなってしまう。経験を積めば積むほど行き詰まっていることが常態化し、他人に相談することもできなくなってしまうことが多い。 若手の意見が改革、改善のきっかけに ディップの事例から分かることは、あらゆる仕事について言えることだが、基本的な仕事の手順が標準化され、具体的に仕事が進捗するプロセスがオープンになっていることが、経験の浅い社員にとって大きな支えになるということだろう。仕事が進捗、問題点、不安要素が見えやすくなり、自分の解決能力の向上を実感できるチャンスが多くなる。会社としては仕事の手順を標準化していることになっていても、現場ではばらばらになっているようだと、現実の仕事で若手社員は迷うことが多くなり、学んでいる実感が薄くなってしまう。 若手社員はこうしたことに非常に敏感だ。「習うより慣れろ」という考え方だけでは、若手社員は自分の成長を実感できないのかもしれない。逆に研修で学んだ会社での仕事の進め方が、実際の現場でも同じように行われているということは、非常に安心感を与えるはずだ。 取り組み方次第では、研修をきっかけに若い社員のモチベーションを大きくアップさせることは可能だ。また、若い社員の仕事に関する素朴な疑問を拾い上げ、検証することで、改善のきっかけをつかめる可能性もあるだろう。 研修と実際が乖離しないことが大切 ディップの取り組みは本来現場でOJTとして行われる教育を研修にまで持ち込み、しかも、それがシミュレーションではなくいわゆる「実弾演習」に近いものだったというところがユニークだ。 新人、あるいは若手の研修というと、どうしても、実際の仕事の場面ですぐに役立つ内容というよりも、基礎訓練に終始しがちだ。それに比べて営業における「勝ちパターン」を早くから教え込んでいくことは、実際の業務ですぐに役立つという意味で、若手の「学ぶ姿勢」をレベルの高いものにする。 研修で学んだことが、実際に配属後の仕事でも基本として使える、ということは大切なことだ。研修で学んだことが実際には上司から否定され、別の方法を強制されるとなると逆効果になる。ディップでは、会社として幹となる営業パターンとして教育しているのだから、そのようなズレは起こりにくい。 若い人材にはまず「常識」を教え基本を叩き込むことが大切だが、それはビジネスマナーや書類の書き方に留めていていいのだろうか。最も大切な「常識」はその会社が持っている「必須の勝ちパターン」だと考えるべきなのかもしれない。 関連記事 第1回:辞めた人を想うより、いま辞めようとしている人へ 第2回:「勝ちパターン」教育こそ最強の成長促進剤 第3回:「先輩、どうして隠すんですか!」――知恵の埋蔵量を知らしめよ 第4回:辞めたくなっても大丈夫――パターン化された思考からの脱出 第5回:ヘトヘト若手社員よ蘇れ――自律型社員の育成法 第6回:現場カイゼンは若手が担う――下流工程のエキスパートを自覚させる 第7回:現場至上主義を捨て、疲労度をコントロールする 第8回:「第2新卒多数輩出」とならないために 特集:“若葉マーク”社員を活性化させる「実感主義」の育成戦略 コメントコメントを投稿するオンラインマガジン記事カテゴリー
カテゴリー関連記事お知らせ新着コミュニティー月別アーカイブ |