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「CIOこそ改革のリーダーであるべきだ」――大成建設理事情報企画部長木内氏

 ゼネコン大手5社の一角を占める大成建設。数多くの大型建設プロジェクトで証明された高い技術力で定評のある同社だが、公共投資や民間設備投資の削減などによって市場規模が縮小するなか、過当競争という厳しい現実にも直面している。そこで同社は2001年から、業務の無駄を排除してコスト構造を変革させる全社的な業務改革に乗り出した。

 その原動力となったのが情報システム部門である。同部門を率いる社長室理事情報企画部長の木内里美氏は「全社の業務が見渡せる情報システム部門こそ、全体最適を目指した改革を先導すべきだ」と強調する。

――木内さんはもともと土木設計のエンジニアだったそうですね。情報システム部門に移られたきっかけは?

木内氏 本社の土木設計部門にいた1990年代初頭、PCを使って部門内の業務効率化や情報共有ができないか、と仲間と一緒にアップルのMacintoshを端末にしたネットワークを構築したんです。当時は情報システム部門もPCなんて自分たちの扱うものではないという感じでしたから、自由に取り組めました。これが始めてみると電子メールやスケジューラーなど便利に使える。当時の土木設計200人の集団がある種の感動を覚えました。それが草の根的に伝わり、96年頃には2300人ほどいた全国の土木系部門全体に広がり、一大勢力になっていったんです。

 これらのPCはその後のリース更新時にWindowsベースのPCへと入れ替えることになりましたが、こうした活動から企業の情報システムのあり方についても疑問がわくようになり、事あるごとに情報システム部門に対して注文を付けるようになっていました。

 そんな折りの2000年半ば、当社の技術開発費より3割も大きかったITコストが経営課題として取り上げられ、土木部門の代表として次の情報システムの展望を描くタスクフォースに参加しました。このレポートを基に経営トップから「5年後の2005年までにITコストを3割削減せよ」との指令が下りました。「情報システム部門も大変だな」と思っていたのですが、何かと注文を付けていたためか、わたしにその実行役として白羽の矢が立ったんです(笑い)。
――3割削減とは、随分厳しい目標ですね。どう取り組まれたのですか。

木内氏 3割削減の指令を受けて情報システム部門の責任者になったものの、大方針はあっても具体的なプランは何もないという状態でした。これはもう根底からデザインし直してシステムを刷新するしかないと考え、40年間使い続けてきたメインフレームを撤廃し、オープン系へと作り直しました。メインフレームには思い入れのある人が多くいましたから、最後にメインフレームの火を落とす時には神主さんを呼んで「清払い式」も行い、関係者には大変喜ばれましたね。

 同時に、システムの開発・運用業務における外注管理の徹底や現場マネジメントの強化、アウトソーシングの活用、厳格な調達、業務プロセスおよびデータ構造を可視化し、ITを有効活用するなどして、2005年には目標だったコスト3割削減を何とか達成できました。

 建設業界のマーケットは小さくなる一方で供給過剰、過当競争が起こっていますから、自由競争の中で今後は品質が保てないところは淘汰(とうた)されていくはずです。この時期、情報システムのような間接コストというのは非常に大切になるのです。

――建設業界にとって情報システムはどうあるべきなのでしょうか。

木内氏 建設業界にとって、本来ITは生産性を高めるためのものであるはずです。ところが、情報システム部門に来てみると、これが勘定系を中心とした管理業務のシステムに偏りすぎていて、現場の生産性を上げるためのシステムがほとんど見あたりません。

 そこで現場の生産性向上を目指し、2003年から全国に点在する作業所をネットワークで結び、作業所業務の標準化や協調作業を促進する「作業所ネット」を構築し、作業所を中心とした社内外の現場の総合業務ポータルとしています。大手建設会社の建設事業というのは多くの業者がかかわりますし、電子調達も進んでいますから、アレンジメントを標準化することには大きな意味があります。この仕組みの要件定義を現場経験者が中心になって行ったことは、特に重要なポイントです。

 また、全面的にシステム刷新を行っても業務設計書が残っていないというような状態では、10年後に同じ問題に直面します。そこで、経営企画部の協力を得て、それがそのまま業務マニュアルになる形で間接業務のフローチャート化も行っています。見直しのコンセプトは「データ発生時点処理」です。「POWERプロジェクト」と名付けて2002年4月からスタートしました。(編集部注:POWER とはPoint Of Works(発生時点処理)とEnterprise Revolution(企業改革)を組み合わせた造語)

 さらに企業の中で扱っているデータは基本的に変わらないという考え方をもとに、データ構造を可視化し、システム全体をデータベースとして眺められるようにしています。DOA(Data Oriented Approach)という手法を用いており、業務部門の人たちも一緒に読める分かりやすい図にしてイントラネットに載せています。社内ではこれを「全社情報マップ」と呼んでいますね。

 今でこそ「可視化」は経営のキーワードの1つになっていますが、企業がIT化を図るうえで業務プロセスやデータ構造を可視化するのは、基本中の基本です。しかも1回作成すれば終わりではなく、必要に応じて改訂していかなくてはなりません。特にこれからは内部統制への対応が不可欠です。当社でも当然対応を行っていきますが、業務プロセスやデータ構造をすべて可視化してあるので、IT統制面では必要なものだけ追加していけばよさそうです。

――今後の課題となってくるのは何ですか。

木内氏 実はこれ以外にも2005年から2006年にかけてシステム子会社の業務改革を進めた結果、2006年にはコストをさらに1割減らして4割カットを達成しています。あとはこの状態を維持していけばいいと思っていますが、ソフトウェア開発手法の効率化をすれば、さらにコストを削減できる余地があると考えています。開発手法はほとんど手をつけてこなかった部分ですので、今後は生産性を上げるツールの導入やダイレクトオフショア開発なども検討してきたいと考えています。

 今後の情報システム部門として大きな課題となってくるのは、ITの利活用度を一層上げて、業務の改善・改革を推し進め、業務品質の向上に貢献していくことです。そこで手始めとして、建築・土木部門のスタッフと一緒に「改善あるある探検隊」というチームを結成して、現場に出向いてITで業務改善できる点がないかを探す活動を行っています。

 業務部門の現場の人たちには、システム部門のスタッフと直接、業務改善について議論できる機会となりますし、システム部門のスタッフにとっても現場の要望を聞き、自分たちの提案も直接説明できるので、双方ともにモチベーションが上がってきていますね。

――多くの企業はシステム投資のROI(Return On Investment)に苦しんでいるようですが。

木内氏 すでにITはインフラ化しているのでROIでは測れません。電気や電話がROIで測れないのと同じことです。だからこそ、できるかぎり無駄を省いて利活用の向上を狙っているわけです。

――木内さんが情報システム部門長として心がけていることがあれば教えてください。

木内氏 情報システム部門長というとITの専門家というイメージがあるかもしれませんが、大事なのはマネジメントの視点だと思います。わたしはマネジメントが8割、ITは2割という見方で仕事に臨んでいます。とはいえ、企業にイノベーションをもたらす原動力になるのはITにほかなりませんから、技術を軽視しているわけではありません。しかし、それを生かせるかどうかはマネジメントに掛かってきます。

 全社の業務が見渡せる情報システム部門こそ、全体最適を目指した改革を先導すべきだと思います。情報システム部門長は、まさしく改革のリーダーであるべきです。わたしもそれを肝に銘じ、情報システム部門も一層改革を推し進める集団として鍛え上げていきたいと考えています。

――木内さんはITベンダーをどのように感じていますか。

木内氏 一言でいえば「しっかりとエンジニアリングしてください」ということでしょうか。プロフェッショナルなのだから、せめて品質や納期はしっかりと保証してもらわないと困ります。建設業界ではモノづくりの手法が確立されており、それに携わる人のスキルも資格制度によって規定され、法体系も整備されています。このような構造によって、生産したモノの品質や納期はしっかりと保証されているのです。

 IT業界となると、誰もがシステム構築に携われますが、誰も品質を保証してはくれません。資格制度や法整備は業界によって違いはありますが、せめて品質や納期を保証するためのエンジアリングはしっかりと行ってほしい。仕様書づくりにおいても、とかくユーザー側の能力不足が指摘されますが、わたしに言わせると、本来そこをサポートするITベンダー側のエンジニアリング力があってしかるべきだと思います。特に、ソフトウェア開発においてはそれがありません。これはIT業界にとって大きな問題だと思いますね。

聞き手・文=エグゼクティブ編集部

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